
春ウララ。徐々に気温が上がりはじめた週末、山梨県南部町内舟にあるOB森田さんのお宅を訪ねた。
内舟は、250年も前から「内舟歌舞伎」という伝統を守る場所で、江戸の旅芸人が身延山参詣の帰り道に滞在し、歌舞伎を伝授したのが始まりと言われ、「内舟歌舞伎」は無形文化財として現在も12月に定期公演を行っている。この森田さんのご先祖はこの歌舞伎の義太夫で、代々、新築を建てる前から地域の方が、歌舞伎を練習する場所として家を解放している。
もともと住んでいたこの場所で新築を立て替えたのは、2年前。ご主人が亡くなって、子供達もそれぞれに独立したころ。自分がこれからの時間をゆったりと楽しむ為に、と同時に、地域の方々が気負いなく憩う場所を作りたかったから。そして、亡くなったご主人の残した膨大な本があり、「地域に拓いた図書館をしたい」というご主人の生前の夢を叶えようと思ったから。別宅にいつでも開かれた図書室があり、入り口に「森田文庫」と銘打ったこの家は、一人暮らしながら、たくさんの方々が出入りしている。


平屋のようにも見えるが、二階建てで、一階のメインはリビングダイニング。それから小池のある庭に抜ける和室。そして、二階に寝室がある。寝室に行く前にちょっとしたワークスペースがあり、家族の思い出が飾ってある。森田さんのお気に入りは、なんといっても一階にある土間キッチン。部屋の中にもキッチンはあるが、外に出やすい土間キッチンは使い勝手がいい。山から取ってきた筍をすぐに土間に運んで、下処理をしたり、近所の方と土間に集まって料理したりする。


ここで、森田さん達の作る、内舟名物「田舎ずし」をご紹介しよう!!まず、面白いのが、里芋の芋茎を使う。皮をむいて、お醤油、お砂糖、みりん、出汁と共に炊いたら、芋茎がかんぴょうのようになる。それと人参、ごぼうで海苔巻きにする。光の入る明るい土間を見ながらこの話を聞くと、奥様がワイワイと集まってお料理する姿が目に浮かぶようだった。建ててみて気付いたのは、ダイニングテーブルに座っている時。明け方、二階の東側にある窓から朝日がすーっと伸びてきて、和室の仏壇を照らす。夜は、見上げると南側にある窓から月と星が見える。これも、この家のもうひとつのお気に入りだ。今回、お伺いして思ったのは、この家にはいたるところに。例えば、入り口の大きな桜の木に。飾ってある豪華な歌舞伎の衣装に。いつでも入っていいよという図書室に。庭の小池の花々に。仏壇に伸びる光に。森田さんや、訪れる沢山の方々を優しく見守る光がある。仏様がいたるところに住んでいるお宅なのだなと思った。

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